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東京弁護士会所属弁護士

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内容証明郵便で「出願中特許の侵害」を告知された場合

紛争解決
August 20,2020

はじめに

 ライバル企業から、弁護士名義で「貴社の商品は、特許出願中の弊社技術を侵害している」といった内容証明郵便が届き、販売の差し止めと損害賠償を要求された場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

 このような場合、直ちに損害賠償責任等が発生するわけではありません。

 しかし、ライバル企業が出願している特許が、将来、登録された場合には、ライバル企業からの通知文を受領した時から登録までの期間に対応するライセンス料相当額を支払う義務が発生することがあります。

特許権を獲得するまでの道のり

 日本では、いわゆる「知的財産権」として、著作権、実用新案権、商標権、特許権、意匠権などが知られていますが、実は、著作権のように作成したり作曲したりした瞬間に発生する権利から、数年にわたる厳しい審査を経てようやく成立する権利まで様々です。

 特に、「特許権」については以下の手続きが必要であり、期間も1年半から3年ほど要します。


①出願

▶︎文章と図で発明の内容を説明する「明細書」と、特許を申請するための「願書」を作成し、特許庁の出願窓口に申請します(郵送、電子送信)
▶︎「明細書」には、特許請求の範囲や発明の内容を箇条書きにした請求項を記載するので、素人にはまずムリなので弁理士に依頼することになります。


②公開

▶︎特許庁が発行する出願公開公報という文書や、特許庁が管理する「特許情報プラットホーム J-PlatPat」に出願の内容が掲載されます。
▶︎全国に対し、発明の存在を全国に知らせるとともに、将来の権利を確保することになります。


③審査

▶︎出願した発明の内容の審査を受けます。
▶︎審査に合格すると登録の通知(特許査定)が送付されます。


④登録

▶︎所定の特許料を支払い、「特許原簿」に登録されることで、はじめて「特許権」が成立します。


 このように、特許権は、権利が発生するまで長く複雑な手続きを要します。もっとも、権利取得まで慎重な手続・審査を行うことの代償として、他の知的財産権よりも強力な権限を付与しています。

特許出願中は「補償金請求権」という制度で保護されます

 実は、「特許出願中」という状態は、何らの権利があるわけもなく、法律によって保護されるものでもありません。

 したがって、威丈高に「弊社の技術を侵害している」と主張されたからといって、まだ「特許出願中」である以上、特許権を侵害しているわけではありませんので焦る必要はありませんし、もちろん、損害金を支払う必要もありません。

 そもそも、統計によれば、出願件数に対する特許登録率が60%程度(特許庁ステータスレポート2020参照)ことを考えれば、5件に2件は「特許権」として認められないまま消え去っていくわけですから、「特許出願中」だからといって、必要以上に恐れることはないわけです。

 もっとも、「出願中の特許」には、将来、特許権として認められた場合に遡って損害金(ライセンス料相当額)を請求することができるという権利があります。

 これは「補償金請求権」と呼ばれるもので、上記の「公開手続(出願から1年6カ月経過)」以降に、勝手に発明を使っている者に対しあらかじめ「警告文」を送付することで、警告文を送付した時から、将来、特許が登録された時までの期間に相当する損害金(ライセンス料相当額)を、特許の登録以降に請求することができる権利です。

 したがって、直ちに損害賠償責任等が発生するわけではありませんが、将来、特許権として認められる可能性があるかどうか、当該特許権を侵害する可能性があるかどうか(特許権の範囲かどうか)について「出願公開公報」を精査し、専門家の意見を聴きながら自社製品の開発・販売戦略を立てる必要があります。

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