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東京弁護士会所属弁護士

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分譲マンションの建築紛争はなぜ解決できないのか?

紛争解決
December 16,2020

 

はじめに

 マンションの瑕疵について相談を受けることが多々あります。

 「瑕疵」とは、通常、備わっているはずの品質・性能を伴っていない状況を言い、法律の世界ではしょっちゅうでてくる用語です。

 相談の中には、「近隣住戸の生活音がうるさい」、「たばこのにおいが流れてくる」といったものがありますが、これらは「マンションにおける共同生活上のマナー」や「管理規約」の問題なので、レオパレス問題のように防火壁・防音壁が設置されていないといったトンデモナイ事案ではない限り、「瑕疵」問題とはなりません(よっぽどの手抜き工事ではない限り、「音」や「たばこ」問題が建築上の瑕疵に該当することはないでしょう)。

 やはり相談の多くは、「給排水設備の異常」、「外壁のはがれ」、「敷地内の水はけ不良」、「雨漏り」などです。

 しかしながら、分譲マンションの場合、こういった問題が発見されても、住民が納得する解決に至ることは稀です。問題が発生しても数年、時には10年近く放置されたままになることもあり、相談を受けた時点で、既に時効などの法律的限界に至ってしまっている例が多々あります。

 今回、分譲マンションの建築紛争はなぜ解決しにくいのか、その原因を①住民側の問題、②業者側の問題、という2つの観点からみてきたいと思います。

住民側の問題

 分譲マンションの建築紛争が解決しにくい住民側の第一の原因は、その「瑕疵」が「専有部分」なのか「共用部分」なのか、といった点にあります。

 「専有部分」とは、実際に住んでいる部分と考えれば間違いありません。

 「共用部分」とは、それ以外の部分、すなわち、エントランス、廊下、エレベーター、敷地内の公園、ゴミ置場、非常階段、外壁などです。

 ところで、バルコニーや玄関扉、給排水の配管、窓ガラス、インターフォン、などは「実際に住んでいる部分」に設置されているものであっても「共用部分」となります。これらの「共用部分」は「専用部分」と言い、所有物としてはみんなのモノだけど、そのモノに近い人が専用で使用することができるというものです(注:わかりやすく説明しています)。

 さて、家の中で雨漏りなどが発生したら、そこに住んでいる住民は必死になって修補を求めますし原因を探ることでしょう(専有部分に発生した問題)。

 また、給排水管が詰まった、バルコニーにひびが入ったといった場合も、実際に生活に困るので修補や原因追及を管理組合(理事会)に頼ることになります(専用部分に発生した問題)。

 しかし、外壁のタイルがはがれた、エントランスの石畳が盛り上がっている、非常階段が雨漏りしている(共用部分のうち専用部分以外に発生した問題)といった場合、管理組合の理事でもなければ、生活に支障がない限りほとんどの住民の方は無関心です。

 また、管理組合の理事を務めていても、「当番」、「抽選」の方々は任期が終われば“ただの住民の一人”に戻るので途端に関心がなくなります。「立候補」した方であっても、「何とかしよう!」という気概のある方はなかなかいません。

 このように、特に、「専有部分でもなく共用部分のうち専用部分でもない箇所」に発生した問題については、管理組合(理事会)で「何とかしよう!」と思い立っても、「マンションの瑕疵」については素人である理事にできることは少なく、頼みの綱である管理会社に依頼しても、後述のような態度をとられてしまいます。

 そうこうしているうちに具体的な解決策も見いだせないまま、「何とかしよう!」と積極的だった理事も任期が終了したり引っ越したりしていなくなり、生活に特段の支障がなければそのまま放置され、管理会社の担当者も変わり、そのうち、ある時の理事会で「数年前、こんな問題があったようだけど、どうします?」、「当時のことが分かる人がいないしわからないね」となり、“お蔵入り”してしまうわけです。

 分譲マンションの建築紛争が解決しにくい住民側の第二の原因は、仕方がないことですが、問題の解決方法を知らないということです。

 何かの“モノゴト”が発生した場合、解決するためには、①何が発生したのか、②その原因は何か、③その発生した事象は法的問題なのか、④法的問題について誰に何を請求するのか、という順に事を進めなければなりません。

 しかし、分譲マンションで何らかの問題が発生しても、たいていの場合、「管理会社、何とかしろ」、「なんでできないんだ」、「回答になってない」、「売主は売ったら、後は知らないということか」、「そういう態度ってどうなんですか」という非生産的な問答が繰り返されるだけです。これではフラストレーションがたまるばかりです。

 そこで、「管理会社に頼む」という発想を捨て、自前で専門家を擁立することが肝要です。

 すなわち、「マンションの専門家」と言われる職業には、マンション管理士、建築士といった国家資格がありますし、国家資格ではなくても不動産コンサルティング技能士、設計士などがありますし、紛争解決目的のためであればそれを独占業務とする弁護士がいます。

 多額の管理委託費を支払っている管理会社は、清掃、修繕、お金の管理などの日常のマンション管理であれば120パーセント完璧に仕事をしてくれますが、何かの“モノゴト”が発生した場合には、後述の問題も踏まえて、別立てで専門家を立てるという発想をもってください。

業者側の問題

 分譲マンション(特に新築)には、「販売主(事業者)」、「販売代理」、「管理会社」、「建設会社」、「設計会社」という企業が関係します。

 「販売主(事業者)」はいわゆるデヴェロッパーと呼ばれる企業で、住友不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、東急不動産、東京建物、野村不動産、大京といった大企業です。

 「販売代理」とは、マンションを販売する営業マンを抱えている企業であり、たいていデヴェロッパーの子会社です。

 「管理会社」もほとんどの場合(少なくとも分譲当初は)、デヴェロッパーの子会社で、管理組合から委託を受けてマンション管理を行います。実は、マンション事業は、マンションを売るより管理業務のほうが利益率が高く、デヴェロッパーは管理会社をいろんな意味で手放しません。

 「建設会社」、「設計会社」は、デヴェロッパーのマンション事業ごとに組合せが決まるので、ここは、ほとんどの場合がデヴェロッパーの子会社、というわけではありません。「建設会社」も多くは大企業です。
 
 ところで、分譲したマンションにおいて何かの問題が発生しても、ほとんどの場合、「販売主(事業者)」はろくに応対してくれません。営業成績や企業イメージがあるので分譲中やアフターサービスについてはしっかりやりますが、分譲後は住民から何を言われても、マンション躯体に関する重大なことではない限り文句は建設会社に言ってください、という態度を貫きます。

 なぜなら、第一に、住宅品質確保促進法という法律により、マンションの基礎や柱、梁、壁といった主要な部分や雨水の侵入を防止する屋根の仕上げ、外周壁の仕上げなどの欠陥は10年間という長い期間、修補義務がありますが、このような欠陥・瑕疵が発生する可能性は「販売主(事業者)」や「建設会社」の企業規模・実績・経験からしてほぼあり得ず、この自負心によって彼らにとってはほとんどの場合が「とるに足らない問題」に過ぎないからです。

 第二に、「販売主(事業者)」と「建設会社」のパワーバランスは圧倒的に前者が強いわけで、たいていの建築請負契約には「分譲後に住民から何か言われたらそっち(建設会社)で対応しろ」といった文言があるので、自らに責任が及ぶリスクが僅少だからです。

 次に、「管理会社」ですが、親会社である「販売主(事業者)」が上記の通りである以上、上に倣えの精神の下、まっとうな対応をしてくれるはずもありません。

 私は、これを逆手に取り、情報が「販売主(事業者)」に筒抜けになることを狙って、「この瑕疵の存在については裁判を起こして記者会見するしかないね」などとブラフをうったりしますが、そんなに簡単に意図通りになるものではありません。

 このように、住民とすれば、売買契約の相手方(売主)という直接の関係があり、一番、責任追及のやり玉に挙げたい「販売主(事業者)」が上記の態度であることからフラストレーションはたまるばかりだし、かといって住民は「建設会社」とは接点がない(契約関係もない)ことから、なかなか攻めあぐねてしまうわけです。

 しかし、分譲マンションに関係する企業の力関係を理解し、責め立てる矛先と責める方法を見据えれば、おのずと「攻め口」は見つかります。

「管理会社」に対し「『販売主(事業者)』に何とかしろと伝えろ」と依頼したが、「『販売主(事業者)』に伝えたところ『建設会社』に聞け、と言われたので『建設会社』に聞いたところ、こんな回答でした」といった、“お決まりのパターン”を永遠に繰り返していても、そのうち人が変わり時間が経ち、“お蔵入り”するだけです。

 何かの“モノゴト”が発生した場合の解決手順である、①何が発生したのか、②その原因は何か、③その発生した事象は法的問題なのか、④法的問題について誰に何を請求するのか、のうち、①と②は「マンションの専門家」の協力を得る、③と④は紛争解決を独占業務とする弁護士の協力を得る、という発想をもち、速やかに具体的な行動を執るしかありません。

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