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東京弁護士会所属弁護士

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行方不明の株主への対応方法

予防法務
August 25,2020

はじめに

 株主総会の招集通知は、原則として、会社の株主名簿に記載された住所に送付することで、招集手続きを適法に行ったことになります。

 しかしながら、株主名簿上の住所に株主総会招集通知を送付しても、長年、「宛て所尋ねあたらず」などで通知が届かない場合には、条件次第では、その株主が保有する株式を強制的に買い取ることもできます。

 行方不明の株主を放置すると、後から相続などによって、さらに権利関係が複雑化するリスクがあるので早めに対処しなければなりません。

株主への「通知」手続きの意義

 株式会社における株主は、たいていの場合、株価や配当金、株主優待制度が気になる程度であり、普段は、会社の経営にタッチすることはありません。

 もっとも、誰を取締役にするか、利益を幾ら分配するかなど、会社における重要な決断については、株主は株主総会に出席し議決を行う権利があります。このような会社の経営にとって重要な事項を決定する権利を「共益権」と言い、また、会社の経済的利益について分配を要求する権利を「自益権」と言います。

 そして、このような権利を適切に行使するためには、会社から正確な情報を受領し、また、権利を行使する機会が保障されていなければなりません。

 そのため、会社法は、株主総会を招集する際や、新たな株式発行(募集株式など)を行うなど、一定の重要な事項を実施する場合には、会社に対し、株主に「通知」を行うことを義務付けています。

 もっとも、株主が引越しなどで住所を移転した後、会社に住所変更を届けていない場合や、株主に相続が発生し、新たに相続人が株主となったなどの場合には、会社は、どこに通知を行えば会社法上の義務を果たしたと言えるのか、問題となります。

 この点、会社法は、株主へ通知を行う場合には、「株主名簿に記載された株主の住所」に宛てて送付すれば、通常、到達すべきであった時に到達したとみなすこととし、その限度において、会社の義務を限定することとしています(会社法126条)。

行方不明の株主への対処法

 ところで、株主が行方不明になってしまい、株主名簿上の住所に通知を送付しても到達しない(「宛て所に尋ねあたらず」で返送されてしまう)場合があります。

 会社法上は、「会社の株主名簿に記載された住所に送付すればよい」としているので「ま、いいか」とすることもできるのですが、このような行方不明の株主に対しいつまでも通知を送付し続けなければならないというのは無意味ですし、事務的にも煩雑となります。

 そこで、会社法は、「通知が継続して5年間到達せず、且つ、会社からの剰余金の配当を継続して5年間受領していない株主」の株式について、取締役会の決議をもって競売したり、売却したり、また、会社が強制的に買取ったり(但し、市場価格のない株式については取締役全員の同意と裁判所の許可が必要となります)することを可能としました(会社法197条)。

 この結果、会社は、行方不明の株主に株式の売却代金を支払い、強制的に株主としての地位を失わせることができるようになりました。

 しかし、そもそも行方不明の株主であるなら上記の売却代金を支払うこともできない、というジレンマも考えられます。

 このような時は、売却代金を支払わなければならない旧株主(債権者)が行方不明であることを理由に、当該売却代金を法務局に供託するという方法があります。


【民法494条】
債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。


 このように、行方不明の株主に対しては、手続きを経て、強制的に株主の地位を失わせることができますので、参考にしてみてください。


【所在不明株主の株式売却許可申立事件】
1 申立手続き
(1) 申立人・・・株式を発行した株式会社。取締役が2名以上いるときは,取締役全員の同意が必要。
(2) 手数料・・・収入印紙1,000円。
(3) 管轄・・・東京都の区部(23区)及び島嶼(伊豆諸島・小笠原諸島)に本店所在地がある株式会社は,東京地方裁判所(本庁)。それ以外は東京地方裁判所立川支部。
2 必要書類
(1)履歴事項全部証明書、(2)株主名簿、(3)5年間分の株主総会招集通知書及び返戻封筒、(4)5年間分の剰余金配当送金通知書及び返戻封筒、(5)(取締役会設置会社で株式会社が買い取る場合は)取締役会議事録、(6)(当該株式会社以外の者が買い取る場合は)買受書、(7)官報(公告)、(8)催告書及び発出したことが判る資料、(9)株価鑑定書、(10)(取締役が2名以上いるときは)全取締役の同意書など。


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