• instagram
  • 写真館
  • お問い合わせ

東京弁護士会所属弁護士

ニュース

NEWS

勤務時間中の私的なスマートフォン使用を禁止し管理することの是非

予防法務
December 04,2020

はじめに

 現在、一人一台は使用しているスマートフォンは、単に「電話機能」だけではなく、インターネットブラウザを使用しての情報検索、SNSの発信・受信、写真撮影、そのほか多くのビジネスツールに利用されており、「ない」となるとプライベートでも仕事でも困り果ててしまいます。

 しかし、他方で勤務時間中、頻繁にスマートフォンを手に取り操作している従業員もおり、明らかに仕事に集中していない、または、明らかに仕事以外に使用している従業員もいます。

 そこで、職務に専念させる観点から、例えば、勤務時間中はスマートフォンを没収し会社で管理することができるのかどうか、問題となります。

勤務時間中のスマートフォンの使用を制限する必要性があるのか!?

 まず、当然のことながら、勤務時間中に、仕事以外のことでスマートフォンを使っているのでは、本来、その従業員に割り振られた業務が滞ってしまいます。

 そもそも会社というものは、複数の従業員や会社の財産(原材料、製造プラント、商品、営業情報など)が有機的に結合され、これらが効率的に動くことで「利益」を生み出す社会的“装置”と考えられているので(少なくとも、当職はそう思っています)、コロナ禍の影響などで売上が落ち込む会社が多い中、「利益」を生み出すために「“遊ばせておく”従業員」などいないわけです。

 とすると、「スマートフォンを使っている一人の従業員」分の業務が滞ってしまうと、会社全体の稼働力も低下します。

 このため、会社全体の業務効率・稼働力を維持することを目的として勤務時間中の従業員のプライベートな行動、例えばスマートフォン使用を制限することは、十分に理由があることになります。

裁判例と職務専念義務

 同様の問題として、かつて、勤務時間中に私用メールを送信していたことなどを理由に、その従業員を懲戒解雇した会社を相手として、その懲戒解雇を争った裁判がありました(いわゆるグレイワールドワイド事件。東京地方裁判所平成15年9月22日判決)。

 判決では、まず、「労働者は、労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っている」として、社員には「職務専念義務」が課せられていることを認めた上で、以下のような判断をしました。


 労働者といえでも個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても職務専念義務に違反するものではないと考えられる(主旨)


 

 要するに、勤務時間中であるからといって、1分、1秒たりとも「業務外」のプライベートな行動を行ってはいけないというわけではなく、業務に支障を来すものではない限り常識的に考えて許される程度であれば私用メールも許されると判断したわけです(また、裁判例によれば、就業規則等に定めることで「私用メールを全面禁止すること」も可能となるようです)。

 この裁判例を敷衍すれば、会社は、勤務時間中に、「業務に支障を来すものではなく常識的に考えて許される程度」を超えて、私的なスマートフォンを使用していることについては、制限することができる考えることができます。

実際問題として

 しかしながら、実際に「業務に支障を来すものではなく常識的に考えて許される程度」を超える私的なスマートフォン使用かどうかについて個別的に判断することは困難です。

 また、ご存知の通り、スマートフォンを使用した情報検索は有用ですし、SNSを利用した従業員間の連絡手段として活用している会社も多くあります。そして、仕事上の情報検索なのか、プライベートなのか、判別することは不可能です。

 そこで、このようなスマートフォンの実情を踏まえた方策としては、「就業規則」などをもって、会社におけるプライベートなスマートフォン使用を規制しなければならない必要性を考慮しながら具体的な制限態様を規定するべきです。

 要するに、会社としては、必要な範囲のプライベートな連絡は許容するとして、勤務時間中のプライベートなSNS使用や株取引やゲームなどのアプリ使用、業務に全く関係がない情報検索などを制限したいわけですから、「勤務時間中のスマートフォン使用を全面禁止する」というのではなく、「勤務時間中に、スマートフォンを使用して何をしていけないか」をルール化することが現実的ということです。

CATEGORY