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東京弁護士会所属弁護士

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株主から“嫌がらせ”のような裁判を起こされたら

紛争解決
September 17,2020

はじめに

 ある株主から株主代表訴訟を提起された場合、どのような対応をしたらよいのでしょうか。特に、請求してきたのは以前から対応に苦慮していた株主であり、明らかに不当な請求であると思うのですが、株主代表訴訟にはどのように対応すればよいでしょうか。

 株主から経営上の失敗などを理由に、ある取締役の責任を追及するよう要求がなされた後、監査役が一定期間内に当該取締役の責任を追及する訴訟を提起しない場合には、株主自身が当該取締役の責任を追及するための訴訟を提起することが可能となります。

 もっとも、これらの責任追及が、取締役に対する単なる嫌がらせ目的であるような場合には、裁判所に対し、①裁判の却下を求める主張をしたり、②訴訟が係属している間、訴訟を提起した株主に対し一定の担保を供託するよう命じる決定を求めたりすることができます。

このような方法により、不当な目的による株主代表訴訟を排除することができます。

株主代表訴訟

 会社の取締役は、会社から「会社をうまく経営してください」という依頼を受けて職務を行っているわけですが、その職務を行う上で会社に損害を与えた場合にはその責任を負わなければなりません。

 そこで、会社法は「株主代表訴訟」という会社の利益、ひいては株主の利益を回復・確保するための制度を設けています。

 ここで「株主代表訴訟」とは、株主が会社を代表して、取締役などの会社の役員に対しその職務上の責任を追及するために提起する訴訟をいい、正しくは「責任追及等の訴え」といいます(会社法第847条)。

 取締役の職務によって会社が損害を被ったのであれば、本来、その被害者である会社自身が取締役の責任を追及することになります。しかし、多くの会社においては、「責任を追及する側の取締役」も「責任を追及される取締役」も同僚や身内みたいなものですから、厳しく責任追及することを期待することはできません。

 とはいえ、このまま取締役の責任追及を放置すれば、会社が被った損害は放置されたままになりますし、それにより株主の利益(剰余金の配当が減るなど)が侵害されることもあり得ます。
そこで、会社法は、「取締役の責任追及」について、株主にイニシアチブを与え、これにより、会社と株主の利益の回復を図ることとしました。

 もっとも、会社法は、いきなり、株主による訴訟提起を認めてはおらず、取締役の責任追及は、まず、株主が、会社(監査役)に対し、「取締役の責任追及」を行うよう求めるところからはじまります(これを「取締役の責任追及請求」といいます)。

 そして、会社法が定める一定の期間(60日)以内に会社が「取締役の責任追及」のための訴訟を提起しない場合、あらためて、当該「取締役の責任追及請求」を行った株主が、会社のために株主代表訴訟を提起することが可能となります。

不当な目的による株主代表訴訟を排除する方法

 ところで、この「株主代表訴訟」ですが、かつては、「株主代表訴訟を提起して欲しくなかったら、〇〇をよこせ」といった不当な目的に使われたり、経営をかく乱したり、経営陣に対する個人的な復讐などのために悪用されたりという時期がありました。

 いわゆる、“特殊株主”や“総会屋”と呼ばれる方々が、会社や株主の利益を回復・確保するためと偽り、また、訴訟を提起する際の印紙代が低額ということもあり本来の法の趣旨から外れた目的で「株主代表訴訟」が濫訴されたため、これらの不当な“輩”から会社を保護する方向にシフトチェンジする必要性が生じたわけです。

 ここで会社法は、「株主代表訴訟」について、「責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は(訴訟を提起・維持することを認めない)(会社法847条1項ただし書)」旨、規定することとしました。

 要するに、「株主代表訴訟」において株主の「不当な目的」が判明した場合には、果たして取締役が責任追及されるような行動をしたのかどうかを判断することなく、株主に「不当な目的」があることのみをもって、当該訴訟を却下することとしたわけです。

「株主代表訴訟」を提起された取締役側の訴訟戦略としては、「訴えの却下を求める本案前の答弁」という反論・防御方法を執ることになります。

担保提供命令の申立

 さらに、会社法は、「不当な目的」をもった株主による「株主代表訴訟」を排除するために、「立担保制度」という仕組みを設けました。

 この「立担保制度」とは、「株主代表訴訟」の被告となった取締役側が、当該訴訟が株主による「悪意」によって提起されたものであることを疎明(裁判官の「間違いない」という心証ではなく、「確かだろう」という推測を獲得すること)することに成功した場合、裁判所が株主側に対し、相当額の担保金を提供するよう命じる制度です。

 この仕組みにより、印紙代が安価であることをいいことに「不当な目的」をもって「株主代表訴訟」を繰り返すような株主に対し、「相当額の担保金を積ませる」、さらに「訴訟で負けた場合には、後日、取締役側への損害賠償のために使われてしまうかもしれない」というプレッシャーを与えることができ、もって、濫訴を防止することができるわけです。

 なお、ここで「悪意」とは「株主が株主代表訴訟で主張する権利などが、事実的、法律的根拠を欠いていることを知りながら、または、嫌がらせのため、取締役を害することを知って代表訴訟を提起することを指すもの(大阪高等裁判所平成9年8月26日決定)」と判示されています。


【悪意と善意】
「悪い心」のことではありません。法律上、この言葉が使用されるときは、「ある事実を知っていること」を意味します。また、「善意」とは、「ある事実を知らないこと」を意味します。したがって、聖人君子だからといって、常に「善意」であるとは限りません。


 もちろん、中には、取締役の責任が追及されてしかるべき事案もあります。

 しかしながら、このような場合であっても、取締役側が株主の「不当な目的」を明らかにすることに成功すれば、株主に対し相当額の担保金の提供を命じさせることが可能です。

 このようなバランスを取ることにより、会社と株主にとって本当に意義のある「取締役の責任追及」が審議されるように工夫しているわけです。

 そして、相当額の担保金の支払が命令されたにも関わらず、一定期間内に当該担保金を供託しない場合、「株主代表訴訟」は終了します。

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