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東京弁護士会所属弁護士

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“営業権”なるものを譲り受けるときの注意点

予防法務
August 19,2020

はじめに

 大金を払って、流行っているレストランの“営業権”を譲り受け、さっそく営業を開始したところ、ビルオーナーから、突然、「誰に断って営業してるんだ?レストランの営業権を譲り受けた?お前が賃借人?そんなの知らん」などと言われてしまうトラブルがあります。

 実は、レストランの“営業権”なるものを譲り受けたとしても、ビルオーナーである賃貸人にとっては、レストランの前のオーナーこそが賃借人であって、「レストランを譲り受けた」と言ったところで対応してくれません。

 なぜなら、譲り受けた“営業権”なるものは、レストランの譲渡人と譲受人の間でしか有効とは言えない「契約当事者の間だけの権利」であって、ビルオーナーに対抗できるような権利ではないからです。

 このため、レストランを営業するためには、ビルオーナーの承諾を得て当該賃借人の地位も譲り受けなければなりません。

何が取引の対象か!?

 コンビニでウーロン茶を買う際、お客さんは「何を買うのか」を理解していますし、コンビニの店員も「何を売るのか」をしっかり理解しています。

 「お前、何を言っているだ?」と思われそうですが、取引において最も重要なことは、「何を売るのか」と「何を買うのか」を特定することです。

 なぜなら、売り手が「売る」と思っている物と、買い手が「買おう」と思っている物がそもそも違っているなら、それは「錯誤」であって、取引は成立していません(無効)。

 ここで、取引の対象が「目に見える物」であれば、売り手と買い手がその物を現認して取引をすれば、簡単に「錯誤」を防ぐことができます。

 しかしながら、例えば、デリバティブ取引やオプション取引といった金融取引や、知的財産に関するライセンス契約などの「目に見えない物」の取引の場合、一体、「何を売るのか」、「何を買うのか」が判然としない場合が多く、トラブルが発生する可能性が極めて高くなります。

 このような取引についてよくわからないままに取引をしてしまうと、はたして、「一体、何にお金を払ったのかよくわからない」まま気が付いたらトラブルが発生している、といったことになりかねません。

 ところで、レストランの “営業権”というものは目に見えるものではないし、法務局に登記できるようなものでもないし、特許庁等に登録できるものでもありません。

このような取引では、何をもって「営業権」というのか、「営業権」にはどのような権利義務が含まれているのか明確にしておかないと、トラブルは避けられません。

飲食店譲渡に関する様々な問題点

 飲食店のオーナーが変わることがよくあります。

 店の内装はそのままで、「〇〇飯店」、「△△焼肉店」、「BAR□□」といった屋号や外装だけが変わる場合もあれば、屋号や外装もそのままの場合もあります。

 もっとも、どんな小さい飲食店でも、ある程度は内装・造作にお金をかけているでしょうから、飲食店を譲渡する際には、その内装・造作費用を回収すべく譲渡代金に含めるのか(いわゆる“居ぬき”)、そもそも内装・造作を取っ払って譲渡するのか(いわゆる“スケルトン”)という問題が発生します。

 また、飲食店の従業員はどうなるのでしょうか?飲食店オーナーが変わるのであれば、飲食店オーナーが法人であろうと個人であろうと雇い主が変わるわけですから、新しい飲食店オーナーが既存の従業員を引き続き雇うのか、それとも、新しい飲食店オーナーが新しい従業員を連れてくるので、それまでの従業員は雇わないのか、という問題が発生します。

 さらには、飲食店がテナント(貸物件)である場合、ビルオーナーとの関係では、賃借人が変わるわけですから、賃貸借契約上の賃借人の地位を変更しなければならないという問題が発生します。

 多くの賃貸借契約では「賃借権」の無断譲渡や無断転貸を禁止しているので、ビルオーナーに無断で飲食店を譲渡したら、そもそも、ビルオーナーが新しい飲食店オーナーを賃借人として認めずに退去請求をしてきたり、元の飲食店オーナーに対し、契約違反を理由に賃貸借契約を解除してきたりすることが考えられます。

 すなわち、ビルオーナーから賃借人として認めてもらえなければ、新しい飲食店オーナーは、飲食店を使えないわけです。

 その他、新しい飲食店オーナーはそれまでの屋号を使えるのか、また、元の飲食店オーナーが別なところで屋号を使い続けることができるのか、といった問題も発生することでしょう。

飲食店譲渡の際の予防法務

 このように、レストランをはじめ、飲食店の譲渡には様々なトラブルが発生する要素がたくさん含まれています。

 そこで、飲食店を取引の対象とする場合には、「契約書」や「覚書」などで、最低限、


① ビルオーナーとの間の賃貸借契約上の賃借人の地位の変更、
② 内装・造作の所有権の帰属(賃貸借契約終了時の当該内装等の撤去義務が誰にあるのかという問題にも関わります)、
③ 従業員との間の雇用契約の帰属(既存の従業員を引き続き雇用するのかどうか)、
④ リース物件についてレンダーとの間の契約上の地位の変更、
⑤ 屋号を引き続き使用するのかどうか(また、元のオーナーが別な場所で使用することを認めるかどうか)、
⑥ 仕入先、その他取引業者との契約関係を継続するのかどうか(引継ぎの要不要も含め)、
⑦ 顧客の取扱い(新オーナー、元のオーナーそれぞれは既存の顧客へ接触できるのかどうか)


を取り決めておくことが大切です。

 これらをしっかりと取り決めないまま、高い「営業権の譲渡代金」を払ってしまうと「トラブル」を一緒に買うことになることを、しっかりと肝に銘じてください。

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