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東京弁護士会所属弁護士

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見知らぬユニオン(労働組合)から団体交渉要求通知が届いた場合のお作法

紛争解決
August 23,2020

はじめに

 社内に労働組合が存在しないのに、突然、全く知らない「〇〇ユニオン」といった団体から「団体交渉要求通知」が届くことがあります。

 社内に労働組合がない場合であっても、会社の従業員が参加している「ユニオン」でれば誠実に向き合い、交渉しなければなりません。

「労働組合」と「ユニオン」

 労働組合とは、給料や勤務時間といった労働条件の改善などを目標として、そのための活動をする労働者の集団をいいます。

 最近、よく、「何とかユニオン」という言葉を聞きますが、「労働組合」も「何とかユニオン」も、労働組合法上は同じ集団です。

 一般的には、「労働組合」といえば、同じ会社に勤務する労働者(従業員)が結成し、使用者である企業との間で交渉を行うものを指しますが、日本では、ほとんどの企業や事業所においてこのような「労働組合」は存在しません。

 なぜなら、日本の企業のほとんどが中小企業であり、“声の大きい社長”の独壇場であることから、使用者と対等な立場で交渉することを目的とする「労働組合」が育つ環境にないからです。

 もちろん、労働組合は原則として労働条件の改善などを目標として2人以上が集まれば結成できるのですが、だからといって、労働者が徒党を組んで“声の大きい社長”と直談判しようという気概はなかなか生まれないものです。

 このため、日本では、職場を超えて、同業や同じ業界の労働者個人が加入できる労働組合が発展しており、これらの労働組合を特に「ユニオン(または、合同労組)」と呼んでいます。

 このような「ユニオン」は、同じ事業所で勤務する労働者が1人しか加入していなくても、他の組合員とともに交渉などができるし、組合員の中には、労働関連法に詳しいいわゆるベテランの方もいらっしゃるので、心強いものがあります。

 確かに、「ユニオン」は社内の労働者の集団ではありませんし、中には特定の政党の党員もいるなど、いわば社外の第三者と言うことができますが、だからと言って「無関係の第三者は引っ込んでろ!」と無視することはできません。

 団体交渉に応じないと、後でペナルティを課せられるリスクもあります。

誠実交渉義務

 労働組合法第7条2号は、使用者は「雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」をしてはならない、と規定しています。

 したがって、使用者は、団体交渉をムシしてはいけません。

 また、単に要求を聞くだけ、協議に参加するだけ、というおざなりな対応ではなく、労働組合の要求に対し、必要に応じて資料を提示するなどしながら使用者側の意見を回答し、合意を成立させるための可能性を模索していかなければなりません。これを「誠実交渉義務」といいます。

 もっとも、使用者側は、労働組合の要求を必ず受諾しなければならないわけではありません。
資料などとともに十分に根拠がある回答・反論を行い、協議を繰り返した結果、労働組合の要求を受け入れることができない場合には、「これ以上、交渉を続けても合意に至る可能性がない」と判断し、交渉を打ち切っても、誠実交渉義務違反にはなりません。

不当労働行為にならないように注意が必要

 上記のとおり、使用者は労働組合と誠実に交渉をしなければならないわけですが、労働組合との交渉を正当な理由なく拒絶したり、また、形式上、交渉の場を設けたとしても、例えば不当に短く交渉時間を区切ったり、人事権などの決定権がない“ひら”社員だけを交渉に臨ませたりすると、労働組合法第7条2号が規定する「不当労働行為」と判断されることがあります。

 労働組合が、使用者側において「不当労働行為」を行っていると判断した場合、都道府県に設置される労働委員会に対し、「不当労働行為に対する救済命令」を求める申立を行う場合があります。

 これは、使用者の行為によって労働者や労働組合の権利が侵害された場合に、侵害行為を中止するよう求めたり、権利の回復を求めたりすることを目的として、行政機関(労働委員会)に対し、使用者の行為が「不当労働行為」に該当するか否かを認定してもらうものです。

 使用者の行為が「不当労働行為」と認定された場合、これらを中止するよう「救済命令」が発令され、もし、使用者が確定した「救済命令」に従わない場合には、「50万円以下の過料」が科される場合もあります(労働組合法第32条)。

 以上のとおり、労働組合(ユニオンを含む)から団体交渉の申入れがなされた場合には、まず、その要求事項を精査し、使用者側の意見を裏付ける根拠となる資料とともに回答をまとめ、誠実に応対しなければなりません。

 申入れを蔑ろにすると、面倒な手続に巻き込まれたり、手痛いペナルティが科されたりする場合もあるので、注意が必要です。

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