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東京弁護士会所属弁護士

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残業代を請求された時の対処法

紛争解決
August 27,2020

はじめに

 赤信号を無視すればどんなに急いでいても道路交通法違反であり、一般人の場合、例外はありません。

 これと同じように、法定労働時間を超えて働かせれば、「残業代」という割増の賃金を支払わなければなりません。

 よく、客商売の美容系、技術系の職業なんかだと「店の営業が終わってから指導してやってんのに、さらに残業代を請求するなんて図々しい」といった声や、深夜営業の飲食店なんかだと、「ウチはそういうの(残業代)を込々ではらってんだよ」といった声が出てきますが、労働基準法の前には沈黙せざるを得ません。

 また、店長だから、管理職手当はらってるから、といった言い訳も通用しません。

 「残業代」は面倒な問題に発展するリスクが高いため、しっかりと対処しなければなりません。

法定労働時間と法定外労働時間

 労働基準法は、人を雇用して業務に従事させている者(使用者)は、原則として、休憩時間を除き1週間に40時間を超えて(1日あたり8時間を超えて)労働をさせることを禁止しています(いわゆる、「法定労働時間」といいます。労働基準法32条。ただし、一部の特例あり)。

 なぜ、1週間に40時間まで(1日8時間まで)しか働いてはならないのか、この「法定労働時間」が設定された趣旨については色々な考えがありますが、人間は、概ね、

(1) まず、生活をしていく上で必要な金銭を稼ぐための時間(労働する時間)
(2) 次に、食事、睡眠、休息など、人が生きていく上で必須となる活動を行うための時間(生活する時間)
(3) 憲法25条が規定する「健康で文化的な生活」、すなわち、娯楽や教養のための時間(社会的、文化的な時間)

 上記3つの時間が必要であると考えられており、24時間を3等分すると8時間ずつとなることから労働時間として8時間が割り当てられたとされています。

 もっとも、如何なる場合でも1週間に40時間、1日8時間までというルールを適用すると、効率の良い企業運営は困難となりますし、現実に発生する時季による繁忙や緊急な業務にも対応できなくなってしまいます。

 そこで、使用者と労働者との間の協議によって、法定労働時間を超えて労働できる時間を定め、労使協定(俗に、「三六協定」と呼ばれます)を締結し、これを労働基準監督署に届けることで、いわゆる「法定外労働時間」を設定することができることとしました(労働基準法36条)。

割増賃金

 「三六協定」に基づいて労働者に「法定労働時間」を超えて労働させる場合、給与に加えて、基本給の25%分の残業代(正確には「割増賃金」といいます)を支払うことになります。例えば、1時間あたりの基本給が1250円の労働者に対しては、その労働時間が40時間を超えた1時間目から、1時間あたり1563円を支払わなければなりません(50銭未満は切り捨て処理をし、それ以上は1円に切り上げます)。

 もし、「割増賃金」を支払わなかった場合、「法定外労働時間」や「割増賃金」に関する規定は強行法規且つ取締法規であるため、違反した使用者に対しては刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられる場合があります。

 最近では、大手広告会社がこれまでの未払い残業代約24億円を支払ったなどというニュースもあり、他方で、大手宅配便会社が残業代未払いを理由に労働基準法違反として立件(送検)されたというニュースもあります。

 使用者としては、「あ、忘れていた!」では済まない問題であることを肝に銘じなければなりません。

管理監督者とは

 ところで、世間では「管理職は残業代が出ない」という誤った考えが横行しています。

 確かに、労働基準法は、「監督若しくは管理の地位にある者は、割増賃金に関する条文を適用しない(割増賃金が発生しない)」という規定があります(労働基準法第41条2号)。

 しかしながら、この「監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」とは、単に、課長や部長といった「肩書」だけで決まるものではありません。

 裁判例上、この「管理監督者」に該当するかどうか(割増賃金を支払わなくてよいかどうか)は、実に厳しい基準で考えられています。

 すなわち、「管理監督者」該当性の基準について東京地方裁判所平成20年1月28日判決は、「管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる」と詳細な判示をしました。

 要するに、一般の労働者が通常行っているような日常業務とは異なり、人事や企画などの重要な会社の経営上の意思決定に経営者と一体となって関与しているような立場にあって、出退勤について管理されておらず、その地位・役職にふさわしい額の手当等が付与されているような管理職が、労働基準法上の「管理監督者」として認められるわけです。

 部長、リーダーなどと呼ばれていても、決定権限もなくタイムカードで出退勤を管理されていて遅刻や早退が給与計算上の減給対象となるのであれば、「管理監督者」には該当しません。

 また、たとえ、その支店の管理を任されていたとしても、業務の後処理などで他の労働者より長い時間、勤務しているにもかかわらず、給与の額が他の労働者と変わらないのであれば、「管理監督者」には該当しません。業務の内容としても、その支店に留まらず、会社全体の人事、総務、企画、財務に関する経営上の意思決定に関与するレベルではないとなりません。

 結局のところ、「管理監督者」とは、極めて限られた労働者を言うのであって、「支店長」という肩書があるだけでは、割増賃金を払わなくても良いということにはならないようです。実際、裁判例上、「管理監督者」が認められたケースはごくわずかです。

消滅時効

 以上のとおり、何とか残業代を払わなくて済む方法といったものはありません。

 もっとも、割増賃金を含む給料というものは、その本来の支払時期から3年の間、請求しないと「消滅時効」が成立し消滅してしまいます(令和2年4月、消滅時効を2年から3年に延長する法律が施行されました。なお、ここで「請求」とは、単に会社に対し「割増賃金を支払え」と要求するだけではなく、終局的には、裁判所に対し訴訟を提起することが必要です)。

 したがって、今後は、請求された残業代のうち3年が経過した分については「消滅時効」を主張(援用)し、3年分のみ支払うことになるでしょう。

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