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例えば生前に会社を三男に円満に継がせたい場合の作法
予防法務
August 22,2020
はじめに
例えば、一代で会社を発展させたオーナー社長に息子が3人いる場合、オーナー社長が亡くなれば、当然、会社の株式(100%)も3人の息子が相続することになります。
オーナー社長としては、長男と次男はそれぞれ独立していることもあり、会社を長年手伝ってくれている三男に株式を集中させて経営を任せたいと考えております。
相続で揉めるようなことがないように、生前にできることを説明していきます。
株主平等原則
株主は、その保有する株式の数に応じて株式会社を所有していると考えられています。
すなわち、全部で100株発行されている株式会社において、10株を保有している株主は、会社の10分の1を所有していると考えることができるわけです(もちろん、だからといって、会社の財産の10分の1をよこせ、という要求はできません)。
他方で、取締役などの経営者は、会社を所有する株主から「会社の経営を頼む」という依頼を受けて(株主総会で取締役として選任されるということです)経営を行うことになります。
このように、株式会社は、お金を出資する株主は特に経営の能力をもっていなくても、経営については経営のプロである取締役などに任せることで数多くの資本家から出資を募ることが可能となるようなシステムを構築したわけです(これを「所有と経営の分離」といいます)。
このようなシステムから当然に導かれる効果として、株主=無個性=お金に近い存在となるわけですから、株主の扱い方としては、個人としての個性や能力などに囚われることなく、その保有する株式の内容と数に応じて対応すればよいということになります。
ここで、「株式の内容と数に応じて対応する」とは、同じ内容の株式であれば同じ権利を与えなければならないことを意味し、会社法第1条は、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めています(これを「株主平等原則」といいます)。
種類株式の活用
上記のとおり、株式会社には、株主に対し、「株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱う」義務が課せられています。
もっとも、「株式の内容に応じて」とあるように、いかなる場合でも株式1株を平等に取り扱うわけではありません。
例えば、会社法は「種類株式」という、「株主平等原則」を発展させた制度を規定しています。
この「種類株式」とは、普通株式と比較して、権利の内容が異なる(ある事項について優先権を持たせていたり、劣後させていたり)株式を意味し、会社法第108条は、9種類の「種類株式」を発行することができる旨、規定しています。
【種類株式】
(1) 剰余金の配当に優劣を設けた株式
(2) 残余財産の分配に優劣を設けた株式
(3) 株主総会で議決権を行使できる事項に制限を設けた株式
(4) 譲渡制限を設けた株式
(5) 株主による株式の取得請求権に制限を設けた株式
(6) 一定事由の発生を条件として会社が株主から一方的に取得できる株式
(7) 会社が株主総会決議でその種類の株式の全部を取得できる株式
(8) 一定の決議事項について、当該種類株主の種類株主総会の決議がないと会社の決議として認めない旨の株式
(9) 種類株主総会の決議で、取締役会・監査役の選任ができる株式
前述の「株主平等原則」との関係では、内容を変更した特別な株式を発行しても、当該特別な株式を保有する株主の間(種類株主の間)で不平等に取り扱われなければ、株主平等原則に反することはないのです。
このような「種類株式」の例として、(1)であれば、剰余金について普通株式を保有する株主より優先的に配当することができる株式(優先株式)が挙げられますし、また、(1)と(3)を掛け合わせた株式として、剰余金の配当を優先的に受けられるが議決権はないという株式(無議決権株式)を挙げられることができます。
設問の場合、これらの「種類株式」の制度を利用し、例えば、長男及び次男が会社の経営に興味がないのであれば「議決権がない株式」を発行してこれらの株式を相続させ、三男には「議決権がある株式」を相続させる(株式の数としては、それぞれ3分の1ずつ)という遺言を作成することで、株式を巡る無用な相続紛争を避けることができ、且つ会社の意思決定も円滑に行うことができることになります。
さらに、これらの「議決権がない株式」に「剰余金の配当を優先する権利」を付与すれば、経営には興味ないがお金には興味がある長男及び次男を納得させることも十分にできるでしょう。
株主ごとに異なる取扱いを行う方法
また、会社法は、株式を譲渡する際に株主総会や取締役会の承諾を条件とする非公開会社に限り、株主ごとに異なる取扱いをすることができるとも規定しています(会社法第109条第2項)。
これは「株主平等原則」の大きな例外であり、権利の内容が異なる株式の話ではなく、要するに、「株主」ごとに「この株主さんは、保有する株式の種類や数にかかわらず、こういう権利を付与する」、「この株主さんだけは、保有する株式の種類や数にかかわらず、こういう時の決議には参加できないようにする」という取扱いをすることができるという制度です。
そして、この制度の利用方法としては、会社の定款を変更して、会社法第105条第1項が規定する権利の内容、すなわち、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会で議決する権利を「株主」ごとに変更することになります。
例えば、同じ「普通株式」を保有していたとしても、定款をもって「誰々の株式については、議決権を制限する」旨、規定することで、剰余金等の配当は受けることができるが、取締役を選任するなどの経営には関与できない特定の株主を誕生させることができるわけです。
設立当初において、ある特定の株主との間で、出資して利益はもらうが経営には口を出さないといった信頼関係が存在するような場合には、この制度を利用する価値が十分にあります。
設問においても、定款を変更し、会社の取締役を務める株主のみ議決権がある(少し、“鶏が先か卵が先か”のきらいもありますが、あくまで例えなのでご容赦ください)旨の規定を設けることで、現経営者の死後、その株式は3分の1ずつ相続したとしても、三男に経営を集中させることができることでしょう。
以上のとおり、定款を変更し、発行済普通株式の3分の2を「議決権制限株式」に変更し、長男と次男には、それぞれ3分の1ずつ「議決権制限株式」を、三男には「普通株式(議決権付株式)」を相続させる旨の遺言を作成し、創業者の死後は三男のみが議決権を行使できる仕組みを整えておくという方法がベストです。
また、非公開会社であれば、議決権などの株主の権利について、保有する株式の数に関わりなく、一部の株主にとって不平等な内容を定め、その代償として当該株主への剰余金の配当を多額にするという仕組みも可能なので、三男に会社の経営を集中させ、長男と次男はお金で解決するということも可能です。