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東京弁護士会所属弁護士

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過労を理由とする交通事故の場合、上司にも刑事罰が科される場合もあります

予防法務
August 27,2020

はじめに

 従業員が勤務中に交通事故を起こした場合、当該従業員は過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律。7年以下の懲役など)が科されますが、実は、「過労」などが原因による交通事故の場合、使用者である企業等にも刑事責任が発生する可能性があります。

 このため、企業としては、従業員が「過労運転」とならないように、適正に労務管理をしなければなりません。

過労運転下命(道路交通法違反)の罪

 平成23年9月、高速道路で発生した玉突き事故について、運送会社の営業所長などが逮捕されたという事件がありました。

 また、平成29年10月、部下の職員に過労運転をさせたとして、兵庫県川西市選挙管理委員会の当該職員の上司にあたる者が過労運転下命(道路交通法違反)で書類送検されたという事件もあります(この事件は、後日、不起訴処分となりました)。

 なぜ、実際に運転をしていたわけでもない人間が、「刑事責任」を問われるのでしょうか。

 刑事責任は「法を犯した個人が罰せられる」という大原則によって成り立っています。

 犯罪者の親戚だからといって刑事責任が問われる、といったような前近代的な発想は、日本ではもはや存在しません。

 しかしながら、道路交通法は、「直接運転をしていない使用者」を対象に「過労運転下命罪(道路交通法75条1項4号、同法66条)」という刑事罰を設けており、3年以下の懲役か50万円以下の罰金が科されることになります。

 もともと、過労、病気、薬物の影響などの理由で正常な運転ができないおそれがある状態での運転は、すべての人が禁じられているところ(道路交通法66条)、そのような状態にある者に対し、使用者などが業務に関し運転することを命じることをも禁止したわけです。

「過労運転」

 では、過労、病気、薬物の影響などの理由で正常な運転が不可能となるような「過労運転」とは、具体的にどのような状態かが問題となりますが、厚生労働省による「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)について」の中の「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」が参考になります。

 当該告示では、以下のような基準を示しています。


【トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイントが示す拘束時間】
① トラック運転手の拘束時間(運転時間や休憩時間を含む)は、1か月に293時間以内(ただし、労使協定があれば、320時間まで延長可)。
② 1日単位では、13時間を超えてはならない(延長する場合であっても最大16時間)。
③ 勤務終了後、継続して8時間以上の休息期間が必要。
④ 1日の運転時間は、2日(始業時刻から48時間)平均で9時間以内。
⑤ 連続運転時間は、4時間以内。


 このほかにも、例えば、「休息時間」とは、トラック内などは含まれず、ドライバーの自宅内での期間であることが必要であるとされたり、なかなか厳しい条件が定められています。

 使用者が、このような「拘束時間」を超える業務を命じていると、労働者が自動車事故を起こした場合には「過労運転」と判断され、過労運転下命罪が適用されることがあるので注意が必要です。

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